真夜中のバトル!お前はどちらの道を選ぶのだ
保育園生の頃、夜中に寝ていたら叩き起こされた。
見ると兄も同様に叩き起こされている。
こっちに来いと言うので、二人でわけもわからずキッチンへ行くと、向かって左側に父、右側に母がすでに臨戦体制で睨み合っていた。
私と兄は真ん中に立たされ、不穏な空気に早くもびびっていた。
するとどちらともなく、「お父さんとお母さん、どっちに来る。どっちかを選べ」と言い出した。
さっきまで寝ていただけなのに、突然人生の選択を迫られたのである。
父と母は、「おもちゃでもなんでも好きなもの買ってあげるよ」「美味しいご飯作ってあげるよ」とか言っている。
ママもパパも好きだし、選べないとはっきり思ったことを覚えている。
二人が両端から手を伸ばしてこっちへおいでと猫撫で声で話しかけてきて、この状況がとにかく不気味なのである。
すると、兄が母の方へスタスタと動いた。
えっ、選ぶんだ、これって選んでいいやつなのかと、子供心に思った記憶がある。
私はとにかく兄しか味方がいないので、母か父かというよりも兄がいる方を選んで兄の後を急いでついていった。
母は勝ち誇ったように、「ほらね!子供達は母親がいいに決まってんじゃない」と勝利の雄叫びで、父は漫画のように「くう〜〜!!」と言い、握り拳を作っていた。
一連の流れが当時の私には恐ろしすぎて、今でもはっきり覚えている。
私は兄がはっきりと母親を選べることに衝撃を受けていた。
兄は私よりも4歳上なので、思考が冷静だったのだろう。
大人になって、あの時よくお母さんを選んだねと言ったら、
「当たり前だろ。俺はあの時やっと離れられると思ったよ」と言っていた。
私はまだ小さかったので、事情をなにも知らないのである。
小学生の兄は、4年私より長く生きている分つらい時期も長い。
今考えても兄の選択は正しい。
「離れてホッとしてたのにまた一緒に住むことになって、絶対別れた方がいいと思ってた」と言うのだから、なんとも冷静な小学生である。
私は小学校に上がってもパパママ大好きという感じだったので、兄のようには賢くなかった。
好きだから期待するのである。兄は期待しないから冷静なのだ。
ひとつ、数年前に兄から言われて切なくなった話がある。
「いつも、なんでこんなこと言うんだろうと考えていた。なんでこの人はこんなひどいことを言うのか、常に考えていた。だから大人になった今でも、仕事先で相手に対してなんでそうなのかを考える癖がついている」
すごい。私はそんなこと考えたこともない。
兄は反抗もせずひたすら無口だったが、頭の中ではぐるぐると考えていたのである。
私はいつも、「ひどい、親なら普通子供にこう思うもんじゃないの?」という上から目線の失望だけであった。
私たち兄妹は倫理観を鍛え上げられ、兄は思考の癖まで身に付けたのだから無駄ではなかったが、本当に子供の頃の環境は大人になっても影響するので気を付けなければならない。
さもないといつまで経っても結婚しない気ままなアラフォーが爆誕する。
たまごっちもきちんと面倒を見ないと妙な進化を遂げるので、
結局あれはなんだったんだとあきれるほど、父と母は別れることもせずその後もずっと喧嘩に明け暮れていた。
ちなみに両親は今でも仲が悪いが、それでも一緒に住んでいるのだからすごい。
両親どちらを選ぶかは、まだ保育園生くらいの子供には無理がある。
小学校低学年くらいになってようやく事情が分かってくるのである。
私は、親の喧嘩に子供を巻き込むもんじゃないというのも身をもって知っている。
居心地が悪い家庭で育つと、結婚して次こそ幸せな家庭を築きたいと思うタイプか、結婚に夢も希望も持たないやさぐれたタイプかの二択に分けられるように思う。
私は言うまでもなく後者である。ちなみに兄も後者である。
私はこうして順調に、結婚なんか別にしてもしなくてもどっちでもいいという思考の持ち主になっていったのである。